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米ドル以外に対して円安という現状のフシギ

サブ・プライム・パニックの収束とともに、急速なドル安が進んでいます。背景には、米国の景気への不安があるようです。






ここ一月ほど「対米ドル」の他は急速な円安
 為替相場では、サブ・プライム・パニックの落ち着きとともに、実は「急速なドル安」が進んでいます。これはテレビのニュースで「円/ドル」相場だけ見ていてもよくわかりません。為替相場にあまり詳しくない普通の方はおそらく、「円/ドルは6月の終わりに124円をつけて、その後『「サブ・プライム」というアメリカの問題によってドルが下がって円高になり、結局115円くらいでうろうろしている』というのが、最近の相場のイメージなんだと思います。だいたい8%くらい円高になっているというところでしょう。

 しかしながら実態はもう少し複雑です。その全体像を理解するためには、米ドル以外の通貨の動きを知らなければなりません。この辺は、豪ドルやNZドルでFX取引をやっていらっしゃる方にはおなじみかもしれませんが、こうした通貨は一時米ドルの比ではないほどに円に対して急落しました。7月中旬から8月中旬までの約1ヶ月間の間に20%もの円高となり、相当な損失を余儀なくされた方も多かったと思います。

 ただこの激しい円高は、その後「V字回復」という言葉が大げさでないほど急速に、円安方向に回復しています。つまり、米ドル以外の通貨に対してはここ1ヶ月ほど「急速な円安」が起きているのです。

正体は「急速な米ドル安」
 この「米ドル以外に対する急速な円安」の正体は、円/米ドルレートが比較的安定している中で、ユーロ/米ドルや、豪ドル/米ドルといったレートが、物凄い勢いで「米ドル安」に動いていることです。

 この米ドル安の背景には二つの要因が絡んでいます。ひとつは、サブ・プライム・パニックによって理不尽な米ドル高が修正されたこと。もうひとつはパニックが収まり冷静に世界経済の先行きを考える人が増えている中で、米国経済の先行きが不安だという人が増えていることです。

 このうち、一つ目の「パニックによる理不尽な米ドル高」をもたらしたのは「円キャリー・トレード解消」です。サブ・プライム問題が発生するまでは、金融市場にはほとんどリスクなく、低い金利の円を売って高い金利の通貨を買えば、金利収入も得られる上、円安で為替相場からのゲインも得られるという、非常に楽観的な空気が蔓延していました。この結果、循環的な景気や経常赤字という構造問題に不安のある米ドルではなく、ユーロや豪ドルといった通貨がより大きく円に対して上がっていました。これが俗に言う「円キャリー・トレード」です。

 この動きはサブ・プライム・パニックによって巻き戻され、米国の住宅・不動産部門の問題が引き金になっていたにもかかわらず、米ドルが相対的には円に対してあまり下落せず、これまで大きく上昇していた欧州通貨やオセアニア通貨がより下落する結果、「米ドル高」を招くという理不尽な状況が発生していたのです。

 この理不尽な動きはパニックの収束とともに修正されてきました。これがここ最近の「米ドル安」の一つ目の理由です。

パニック収束、米国の景気はやはり不安
 二つ目の理由は、パニックが収まった今、改めて米国の景気を考えてみると、不安が大きいように見えることです。これは景気の舵取りを司っているFRB(連邦準備制度理事会)が一気に0.5%の利下げを行ったことも一役買ったものと思われます。

 米国の景気はおそらく多くの人が数ヶ月前まで考えていたよりも、かなり悪化するものと考えられます。しかしながら、世界経済全体としてはおそらくそれほど悪くならない可能性が高まっています。アジアの景気はここ数ヶ月予想を上回る好調を見せており、今後米国への輸出が減少することを考慮に入れてかなり悲観的な前提を置いても、それほど悪い状態にはならないと見られます。

 それほどに中国やインドの経済発展の裾野は広く、しかも10年前におきたアジア危機の頃と比べて極めて健全に、政府によって経済運営がなされているためです。このため資源や一次産品の値段は今後も大きく下落する可能性はほとんどなく、むしろこの先もそうした産品をより多く産出するために必要な投資を増やしていかねばならない状況です。

 こういう状況ではオーストラリアやカナダといった資源産出国、また発展している当人であるアジアの国々の通貨は米ドルに対して上昇するのが当然ともいえます。また、欧州も通貨統合の大成功、東欧への拡大により、経済の効率、生産性が大幅に向上しており、米国経済の減速の影響を受けにくくなっています。欧州通貨も、米ドルに対して上昇するのが当然であり、多くの人が今後もこうした通貨に対する米ドル安は続くものと見ています。

円は「米ドル安」の対象外?
 さて、日本人としては、こうした「米ドル安」の環境の中で、円がどこまで米ドルに対して上昇する可能性があるのかが問題です。その程度いかんによって、豪ドルやユーロに対して円が上がるのか下がるのかが決まるからです。

 結論から言えば、やはり日本円は欧州通貨や新興国通貨、資源国通貨と比べて魅力が乏しいといわざるを得ないと思います。日本の高齢化はかなり強烈で、その凄さが日に日に明らかになってきています。年金や介護保険等、今後取り組まなければならない課題は山積しており、移民の受け入れなどを含めた根本的な解決策が実施されるのは、おそらくまだ相当先の話になると思います。

 こうした状況では円を積極的に買おうという人は出てきません。従って、筆者は、円が米ドルに対して今後どちらに動くかはなんともいえませんが、他の通貨に対しては円安が続くものと見ています。今後も米ドル/円レートだけを見ていては、全体の動きを理解することが難しい局面が続くでしょう。

グローバル債券ファンドマネージャー 鈴木 英寿