2007. 1.12
2007年為替市場のテーマを大胆予測
2007. 1. 4
為替市場の日本に対する期待は弱すぎないか?
2006.12.25
動き出した為替市場、でも円安はまだ続く?
2006.12.15
世界的な株式市場調整中は引締め過ぎが原因?
2006.12.11
3ヶ月ぶりに突然の円高、いつまで続く?
2006.12. 5
2006.11.28
安定の為替市場、この先は米景気の影響が鍵
2006.11.17
最近の株高、持続のポイントはどこ?
2006.11.14
米ドル対円、今後の動きは日本のふんばり次第
2006.11. 7
回復の兆しを見せるNZドル、その背景は?
2006.10.30
北朝鮮の核実験、為替市場反応ナシはなぜ?
2006.10.20
進む円安の原因は日本株式市場の弱さ?
2006.10.17
日本経済イメージダウンは為替にどう影響?
2006.10.10
米長期金利低下で景気悪化か?為替への影響は
2006. 9.26
金利低下、原油安は株に有利?それとも不利?
2006. 9.19
円の価値、この10年で4割も下落している?
「松坂大輔に60億円」から為替相場を考える
先日話題になったレッド・ソックスと西部ライオンズ「松坂大輔に60億円」のニュース、ここから今後の為替市場を読み解きましょう。
日本株の不調にもかかわらず、株式市場は円安にならず
為替市場は膠着状態が続いていますが、世界の株式市場を見ると、日本株の弱さが際立っています。これには「そもそも日本株はバリュエーションが高い(利益に比べて株価が高い)」、「米国が利上げを止めたにもかかわらず、日銀は利上げに積極的」、「日本の経済指標が期待ほどの改善を見せていない」等さまざまな理由があると思いますが、過去を振り返ってみると、こうした局面においては、為替市場は円安が進行するケースが多く見られました。しかしながら、今回はそれほど円安が進んでいません。むしろ、6月頃から進んでいた円安が、日本株のパフォーマンスが他国市場と比べて本格的に見劣り始めた9月以降、ストップした印象を受けます。
筆者は、これは円をめぐる為替市場の大きな構造変化があったためと考えています。昨年は日本経済が絶好調で、日本株も他国よりも大幅に上昇したにもかかわらず、円安が進みました。これは歴史的に見れば非常に珍しいことでありましたが、こうした現象が起こったメカニズムを考えてみると、「日本株が上昇したことで、日本人の懐具合に余裕が生まれ、日本株への投資を増やすと同時に『外貨建資産』というリスク資産への投資も増やすことができた」ためであったと考えられます。最近起きている事柄も、この裏返しの「日本株が不調で余裕がなくなってきたので、外貨投資も一服させている」ということではないかと考えてみると説明がつきますので、その可能性は高いと思います。
おそらく円は、「景気の良いときには円高、景気の悪いときには円安」という単純な通貨ではなくなりつつあるのだと思います。こうした「構造変化」がなぜ起きているのか、筆者なりに考えてみました。
「松坂大輔に60億円」は高いか安いか?
少々回り道になりますが、最近この問題を考える上で格好の出来事がありました。「ボストン・レッドソックスが西武ライオンズに60億円支払って、松坂大輔との独占交渉権を獲得」というニュースです。筆者にとってはこのニュースは日本と世界との関係をさまざまな側面から考えさせられる事件でした。
このニュースで最初に注目されたのは「60億円」という金額です。事前の予想では30億もいけば物凄い金額と言われていたのに対し、その倍の金額が出てきたわけですから当然驚きです。この金額は高いのか安いのか、レッド・ソックスはこの金額をどう正当化するのか、そこに注目が集まることになりました。
なお一部では「こんな金額はありえないので、レッド・ソックスは西武と裏取引をして、実際に支払う金額はもっと少なくなるのでは」などという憶測もとんでいます。また独占交渉権を得ても、その後の松坂選手との交渉が不調に終わり決裂ということになれば、この60億円の支払い義務もなくなりますので、実際に松坂大輔選手との交渉が続いている現時点では、60億円が本当に有効になるのかどうかはまだ分かりません。そこで以下の議論は「レッド・ソックスが西武ライオンズに60億円を正当な金額として支払う」ことを前提にしています。
日本経済の地盤沈下が原因
60億円が高いか安いか、まずこれを「日本のスポーツ界の常識」に照らしてみると、ありえないほど高い金額でしょう。昨年の松坂選手の推定年棒は3.3億円で、日本球界最高年棒が西武のカブレラ選手で6億、日本人最高はソフトバンク・ホークス松中選手の5億です。3億円以上の選手は13人(うち日本人10人)しかいません。また、読売ジャイアンツの売上げは年間250億円あまりありますが、これはダントツで、阪神タイガースでも100億円程度のようです。他にもJリーグで最高の収入を誇る浦和レッズで60億円ですから、松坂選手の60億円は尋常ではありません。
しかし、米国のスポーツ界ではそれほど物凄い金額ではないかもしれません。年棒トップのニューヨーク・ヤンキースのアレックス・ロドリゲス選手は約25億円、松井秀樹選手は25位ですが15億円あまりです。まさしく日本とは桁が違います。おおよそ日本の4倍程度というイメージです。そう考えると「松坂の60億円」も日本の基準だと15億円程度、ドラフト1位の契約金上限が1.5億ですからその10人分、まあ高いがそれほどでもないということなのかもしれません。
ヨーロッパでも60億円はびっくりする金額ではありません。ヨーロッパではサッカーが一番のメジャー・スポーツですが、今年引退したフランスのジダン選手が2001年にイタリアのユベントスからスペインのレアル・マドリーに移籍した時に、クラブ間で支払われた金額は80億円以上、今年イギリスのチェルシーにイタリアのACミランから移籍したシェフチェンコのケースは60億円以上。まあヨーロッパの場合には、こんな金額が飛び交う結果クラブの経営が怪しくなり、ラテン系の国では倒産や給料不払いなどもよく起きていますから、果たして適正なのかどうかはなんともいえませんが、まあ60億円はあり得る金額です。
さて、それではなぜ日本では「松坂選手の60億円」がありえないほど大きいのでしょうか?答えは
(1)日本が既に世界で有数の金持ち国ではなくなっているから
(2)円が安すぎるから(たとえばドル/円レートが50円まで円高になれば、「松坂選手の60億円」は「25億円」になります)
(3)日本ではスポーツ・ビジネスがあまり盛んではなく相対的に市場規模が小さいから・・・
の3つのうちのどれかでしょう。
筆者はこのすべてが正しいと思っています。ただし、(3)についてはレアル・マドリードでも年間売上が400億円あまり、ニューヨーク・ヤンキースやマンチェスター・ユナイテッドで300億円程度なのを考えると、巨人軍の250億円も十分に対抗できる、日本のスポーツ・ビジネスは小さくないと感じられますので、おそらく「日本経済が地盤沈下した結果、円が非常に安くなっていること」が最大の理由でしょう。そう考えると日本経済は今後5年、10年の取り組み次第でさらに地盤沈下するか、松坂選手を引き止めさらに世界中から名選手をひきつけられるだけの経済力を復活させるか、その後の道が決定づけられるような気がしてなりません。
為替相場は、日本経済が復活できなければ、長期的に見ればこのままずるずると円安に行きやすい環境が続くことになると思います。円安が続くことは良いことばかりではありません。為替相場も今後5年、10年の日本の取り組みが大きく作用するでしょう。
グローバル債券ファンドマネージャー 鈴木 英寿