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最近の株高、
持続のポイントはどこ?
8月から株式市場の好調が続いています。今日はその背景を考察し、今後の株式市場を予測してみましょう。注目すべきは、米国住宅市場と雇用情勢です。
8月以降の株高は「完全着陸」期待から
株式市場は好調が続いています。7月に14,000円台まで下がっていた日経平均株価は16,000円台後半まで上昇していますし、11,000ドルを割り込んでいたNYダウ平均株価12,000ドル以上に上昇し史上最高値を更新しています。
最近の相場を見る上で注意が必要なのは、この上昇が「景気がこれからどんどんよくなる」ことを織り込んでいるものではないということです。株式は基本的には景気がよくなれば上昇し、景気が悪くなれば下落します。しかしながら同時に「金利」や「インフレ」の影響も比較的大きく受ける特性があり、仮に景気がよくても、インフレが進行する場面ではしばしば株式市場は不調になりますし、景気が悪い局面であっても利下げによって今後景気が吹き返してくる可能性が高まれば好調になります。
ここ数ヶ月間の株価の上昇は、この「景気は悪化しているものの、インフレの落ち着きや金利低下という追い風の効果が強い」という見方によるものです。新聞等のメディアでは「米国経済の『軟着陸』観測から株高」という解説をよく目にしますが、一部ではこれを「『完全着陸』の期待」と呼んでいます。金融政策が「完全に」うまくいき、景気はそれほど悪くならない上、インフレも許容可能な水準に封じ込めることができるという見方です。ここまでの株高はこうした非常に楽観的な見方を反映したものと考えるのがよいと思います。
欧米の株価は割安、企業部門は個人部門に比べると健全
こうした「完全着陸」期待から株価が上昇しているのは、欧米の株式市場のヴァリュエーションが安いことが大きく作用しています。現在米国のS&P500指数のPER(株価収益率=株価を一株あたり利益で割った値)は15倍程度と歴史的に見てもかなりの低水準にあります。欧州の株式市場も似たような状況となっており、欧米の株価は利益対比で見て割安という見方が一般的になっています(ちなみに日本株は35倍ほどありますので割安といえる状況ではないかもしれません)。
また、今回の世界的な景気減速局面は、企業部門はそれほど影響を受けず、個人部門に影響が集中するという見方が強いことも、株式市場好調のひとつの要因です。企業は2000年のITバブル崩壊以降、設備投資を極力抑え、不況に強い体質になっているケースが多いのに対し、欧米の個人部門は低金利の恩恵から住宅ローンを増やし、それが不動産市場の好調を生み出し、ますます生活水準が上がるという環境にありましたが、最近の金利上昇で不動産市況が下落に転じてきていることから、今後は消費を抑制するのではないかという見方が強まっています。
米国住宅市場が鍵握る、「完全着陸」にならないケースとは?
このように株価は割安という認識が強いことから、景気がそれほど悪くならなければ株価もそれほど下がる必要はないという見方が一般的です。景気の落ち込みが軽微なものにとどまることが明らかになれば、その後の景気拡大の再開を見越して株価はさらに上昇する可能性が高まります。しかしながら、本当に「完全着陸」となるかどうかはまだ微妙です。その鍵は、米国の住宅市場が握っています。
「完全着陸」は米国の不動産市場がそれほど悪い状態にはならないことが前提となっています。これは、実は米国の不動産市場が今まで本格的に個人消費に悪影響を与えるほどに悪化した例がほとんどないことから、今回も大丈夫であろうという楽観論が強いためです。この楽観はまったく根拠がないわけではありません。そもそも市場価格は誰か「安い値段でもいいから売る」という人が現れなければ下がることはありません。そうした人が増えれば増えるほど価格は下がっていきますが、そうした人がそれほど増えずに、逆に価格が下がったところで買いたいなと思っている人たちが多くいるとすれば、価格は少し下がったところで反転上昇します。市場参加者の大半は、まさにそのように考えています。現在の状況では「下がっても売りたい」という人は少なく、それよりは「下がったら買いたい」と考える人の方が多いので、足元で不動産市況は確かに良くないがしばらくすれば下げ止まるはずだ、と考えているのです。
雇用情勢が本当の鍵か?
では、このシナリオが崩れるのはどんな場合でしょうか?それは「下がっても売りたい」と思う人が増えるケースです。つまり、本格的にお金に困って安値でもいいから売らなければいけない状況に追い込まれるケース、もっとも典型的なケースは失業するようなケースです。このため不動産市場は雇用情勢が本当の鍵を握っているという見方が強まっています。足元の雇用情勢は、減速はしているものの堅調ですので、いまのところは「不動産市場の悪化は軽微なものにとどまり、景気もそれほど悪くならず、しばらくすれば株式市場は景気底打ちを意識し始めて再上昇する」と見る市場参加者が多いです。
筆者はもう少し悲観的
ただ、筆者はもう少しだけ悲観的に見ています。米国民の生活設計は「不動産価格は上がるもの」という見方を前提にしており、そこに少しでも不安が加われば、その不安はその後どんどん大きくなるリスクがあるからです。欧米にはプロパティ・ラダー(不動産梯子)という言葉があり、最初は小さな家を買い、徐々に大きな家に買い換えたいのが一般的ですが、これは日本の「土地神話」が生きていた時代には私たち日本人にも普通のことでした。しかしながらこの15年ほどの間に土地神話は完全に崩壊し、不動産価格が少々上昇してもそれによって財布の紐を緩めるようなことは少なくなってきています。逆に米国ではこの5年ほど毎年2桁以上の伸率で価格が上がっていましたから、かなり無理な計画が横行しているはずですし、限界以上に景気よくお金を使っているケースも多々あるはずです。
米国の不動産市場の行方はまだなんともいえませんが、「雇用が堅調であれば大丈夫」というのは楽観的過ぎると思います。不動産の低迷が直接個人消費に影響を与え、それによる景気減速により企業が雇用を削減し始めるという循環になれば、かなり景気は悪化する可能性が出てきます。「完全着陸」見通しに基づいた株式上昇の後追いは、現時点では危険だと考えています。
グローバル債券ファンドマネージャー 鈴木 英寿