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偉大な経営者、
中内功氏が遺した教訓
戦後の流通業界の発展に多いなる貢献をした中内氏が逝去された。残された我々にできることは、中内氏の歴史からいくつもの重要な点を学ぶことだ。中内氏が遺した教訓を振り返ってみよう。
9月19日の朝、ダイエー創業者で経団連(現日本経団連)副会長などを歴任した中内功氏が逝去された。中内氏には「超ワンマン」など批判めいた称号も付けられていたが、大阪の小さな薬局をグループ5兆円超の巨大グループまで拡大させた実績を考えれば、中内氏は、まぎれもなく偉大な経営者の1人といえる。
中内氏にとって残念だったのは、晩年において「偉大な経営者」を続けることが出来なかった点だろう。中内氏は、2001年1月に経営責任を取る形でダイエーの取締役を辞任。その後、ダイエーグループは自力再建を目指したが、2004年10月には産業再生機構入りとなった。中内氏が一代で築き上げたダイエーグループが、晩年に彼の手を離れて行ったことは、偉大な経営者からの脱落をも意味していた。
彼が偉大な経営者から退いた理由については、消費者行動の変化、土地本位制の崩壊、デフレ圧力などなど、数多くの指摘がある。ただ、こうした指摘を引用するまでもなく、じつは中内氏自身が、自らの経営スタイルの危うさを口にしていた。以下は、すべて中内氏の発言である。
「売上はすべてを癒す。」
「1兆円の次は3兆円だ。」
「量より質の時代というが、資本主義経済では、やはり量が決定権を持つ。」
上記コメントを見る限り、中内氏はあくまで売上拡大に拘っていたと推察される。そして(あくまで個人的な考えだが)こうした拘りが、中内氏を偉大な経営者から退席させた気がする。
読者の多くもご存知かと思うが、GDPは「国内総生産」と訳される。訳語に「生産」という文字が入っているためか、「GDP=マクロでみた売上高」と考える人も多い。しかし、これは間違いである。
経済学の教科書などをみればお分かりのとおり、GDPは、マクロでみた売上高ではなく、「マクロでみた付加価値」つまり利益である。GDPは、国内産出額から中間投入額を差し引くことで算出される(GDP=国内産出額−中間投入額)。よって、GDP統計における「マクロでみた売上高」は、国内産出額であり、「マクロでみた諸コスト」が中間投入額となる。
マクロ経済では、景気を測定する際のモノサシとして、国内産出額ではなく、あくまでGDPを用いる。言い換えれば、景気は(マクロでみた)売上高ではなく(マクロでみた)付加価値(利益)で考えることが前提となっている。
やや厳しい見方かもしれないが、先の発言を見る限り、中内氏は「付加価値額」ではなく、あくまで「産出額」を経営の根幹と考えていたのではないだろうか。ただ先に述べたように、いくら産出額が拡大しようと、付加価値が拡大しなければ、企業経営(ひいては景気)に貢献することはできない。企業経営者が最終的に目指すべきものは、あくまで付加価値額の拡大であり、産出額の拡大は付加価値拡大の手段の1つにすぎない。中内氏は、手段と目的を、いつのころからか逆転させてしまったように思える。
とはいえ、中内氏が持ち前のバイタリティを活かして、日本の流通業界を発展させた「偉大な経営者」であることに変わりはない。残された我々ができることは、中内氏が作り上げてきた歴史から数多くの点を学ぶことだ。その際には、結果を表面的に眺めるだけでなく、中内氏の行動が、どのようなロジックを経て結果となって現れたかを考察することも重要だろう。今後も、日本の産業界に中内氏のような偉大な経営者が出現することを期待しながら、中内氏のご冥福をお祈りしたい。
マーケットエコノミスト 秋新作