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一生の間で裁判員になる確率は67人に1人
2009年までに実施される裁判員制度。一般市民が刑事裁判に参加する制度で、選ばれたら拒否できません。「裁判なんて関わりたくない」という人も多いのに、なぜこんな制度ができちゃったの?
■ 先進国では市民参加の裁判が普通!
「裁判なんて自分には関係ない」――私たちの暮らしの中で裁判は縁遠く、一生関わりをもちたくないと思っている人が多いのではないでしょうか。ところが、一般市民が参加する裁判員制度が、2009年までに実施されることが決まっています。このニュースを知って「なんで、そんな法律ができちゃったの!?」と当惑し、「裁判員に選ばれたら、どうしよう・・・」と不安を感じている人が、私の周囲にも大勢います。
しかし、日本のように裁判官だけが判決を下すスタイルは、世界的に見ると特殊な例のようです。先進国では19世紀前後には市民参加の裁判が定着しています。
市民が参加する裁判には、主に「陪審制度」と「参審制度」の2種類があります。
「陪審制度」では、陪審員に選ばれた市民が有罪か無罪かを決め、裁判官が量刑を決めるという分業が行なわれます。陪審員は一つの事件ごとに選ばれます。陪審制度を採用しているのはアメリカ、イギリス、カナダ、ロシアなどです。
「参審制度」では、政党などに推薦された市民が参審員となり、裁判官と一緒に審理します。1年程度の長期間の任期があります。参審制度を採用しているのはフランスやイタリア、ドイツなどです。
■ 一生の間で裁判員を務める確率は67人に1人・・・
日本で実施される裁判員制度は、一つの事件ごとに裁判員が抽選で選ばれる点は陪審員制度と同じですが、裁判官と一緒に審理していくのは参審制度と同じで、両方の折衷案と言えるものです。
裁判員制度の対象は刑事裁判のみで民事裁判は対象外です。地方裁判所の裁判に限られ、殺人事件や放火事件、身代金目的の誘拐事件など重大な事件が対象となります。
裁判員が選ばれるシステムは、まず選挙権のある人を対象に地方裁判所ごとに抽選で候補者名簿が作成され、事件ごとにくじで裁判員候補者が選ばれます。候補者になれば、裁判所に出頭しなければいけません。候補者の中から事件の関係者などが除外され、辞退希望者の理由などが考慮され、6人の裁判員が決定します。裁判は3人の裁判官と6人の裁判員によって行われます。
辞退が可能なのは、70歳以上、学生、重い病気やケガ、同居している家族の介護や養育などの理由です。「仕事が忙しいから」は認められません。
年間の該当刑事事件数を2814件(平成14年)と仮定し、裁判員6人、裁判員候補者30人とすると、20歳から69歳までの国民が一生のうち裁判員の候補になるのは13人に1人、裁判員となるのは67人に1人という試算になるそうです。
■ なぜ裁判員法ができたの?
立法、行政、司法の三権分立の民主主義社会では、いずれの分野でも国民主権が原則です。立法の分野では、国民が議員を選挙で選びます。選挙で投票することは、国民の権利であり義務でもあります。司法の分野では、裁判員に選ばれたらその役割を果たすことが国民の権利であり、義務でもあるということでしょう。人を裁くというのは国家権力そのものであり、だからこそ国民が参加してチェックしなければという考え方です。
また、法曹関係者の間では戦後から裁判制度について議論がなされていたようです。当時から世界の主流は市民参加の裁判でしたし、実は戦前の日本にも「陪審制度」がありました。大正デモクラシーの時代、原敬内閣が検討し、1923年に陪審法が成立しましたが、第二次世界大戦中に停止されたままなのです。そして、1990年代から「一般市民の常識を裁判に」「被害者の心情に配慮した裁判を」という世論や「陪審制度の復活を」という法曹関係者の声などがあり、司法改革の一環として裁判員制度の導入に至ったのです。
■ 裁判員制度のメリットとデメリット
国民の権利と義務と言われても、素人が有罪無罪を判断できるものだろうかという素朴な疑問が湧いてきます。その疑問には「裁判で重要なのは誰が裁くのかではなく、何が証拠か」という答えが参考になりそうです。素人である裁判員が納得できるだけの証拠が揃っているかどうかが大きなポイントとなるので、証拠集めがより重要となり冤罪が減るのではないかという期待があります。そして、裁判員を長期間拘束するわけにいかないので、集中審理が実行でき裁判の短縮化が進むこと。一般市民である裁判員には、難解な専門用語ではなく平易な言葉で説明しなければいけないので、他の市民にもわかりやすく、批判もしやすい裁判になること、などがメリットとして挙げられます。
デメリットとしては対象が重大な刑事事件に限られていること。審理の中で残酷なシーンの証言を聞いたり、証拠を見たりしなければいけません。裁判員がPTSDに陥ることも予想されます。また、判決が死刑となる場合、殺人などの犯罪者とはいえ1人の命を奪うことに加担したことになり、重いストレスを抱え込むことになりかねません。
裁判員制度は薬害事件や談合問題、環境訴訟など公益に関わる裁判に適用すれば、業界や行政の思惑にとらわれず、民意が反映されるのではないかという意見もあります。市民感覚を生かし、司法を身近に感じてもらうには、刑事裁判ではなく民事裁判のほうが適しているのではという意見も法曹関係者の中にあります。
■ 裁判員制度のコスト
裁判員候補や裁判員に選ばれると基本的に拒否できません。となると、仕事は休まざるを得ません。会社員なら公休とし、かつ有給扱いになるのかもしれませんが、自営業者などは経済的なマイナスも出てくるでしょう。裁判員(候補者も)には日当や交通費などが支払われることになっていますが、額はまだ決まっていません。無作為で選ばれる検察審査会の審査員の日当が8000円なので、裁判員の日当も8000円程度ではないかと推測されています。1事件につき30人の候補者が出頭するなら24万円、3日間の裁判なら6人の裁判員に14万4000円、合計38万4000円が支払われます。仮に年間2814件に適用されれば、日当だけで約10億8000万円の税金が使われることになります。
今年2月に行われた内閣府の世論調査では、裁判員として刑事裁判に参加したくない人が7割を占めています。参加したくない理由は「有罪・無罪の判断が難しそう」「人を裁くということをしたくない」が、それぞれ約46%となっています(複数回答)。
裁判員法が実施されれば、おそらく毎年10億円以上の税金が使われるのに、参加したくない人が7割もいるというのは問題ではないでしょうか。裁判員法の理念や国民の多数が不安に思っている「有罪・無罪の判断が難しそう」「人を裁くということをしたくない」という点について、法務省や法曹関係者はもっと説明責任を果たすべきではないでしょうか。
フリーライター 関口章子