□ 連結重視決算とグループ経営
今3月期から連結ベースの決算が最重視され、従来、持株基準のみで子会社・関連会社を判定していましたが、実質支配力基準が加わり、連結範囲が拡大するように会計制度が変更になりました。従来から連結決算は公表されており、ファンドマネージャーは株価指標を算出する際、既に連結ベースの数字を重視していましたが、連結の適用範囲の拡大でさらに企業実態が掴みやすくなりました。ただし、依然わが国のグループ経営のあり方はグローバルスタンダード(米国基準)と比較すると理解しがたいところもあります。筆者は今後の株式市場を考える上で、また銘柄選定を行う際に、この「グループ経営のあり方」を考えることは投資のヒントになるのではないかと思っています。
□ 米国にはない親子上場
米国のやり方がグローバルスタンダードであるかについては議論の余地があると思いますが、日本企業にありがちな子会社を部分的に放出し、公開するという経営手法は理屈を考えると矛盾点が見つかります。米国の場合、子会社の株式は100%保有か、全部放出してしまうかのいずれかの場合が殆どです。したがって日本企業のように親子上場されることはまずありません。この親子上場ではどのような問題が生じるのでしょうか?
□ 二重計上の問題が発生
まず二重計上の問題が発生します。例えば最も知られていて影響が大きいNTTとNTTドコモの関係で考えてみましょう。直近の会社四季報によればNTTドコモ株におけるNTTの持ち株比率は67.1%となっています。本来、NTTの株価にはNTTが保有しているNTTデータ、NTTドコモ株の資産としての価値が含まれているはずです。ところがこれに加えてNTTデータ、NTTドコモ共にマーケットから時価評価が与えられており、このNTT保有分は理論上、二重計上されることになります。米国の場合、大抵スピンオフ(1)かトラッキングストック(2)などの方法がとられるため、上記のような問題が起きることは殆どありません。やはり米国人の目には親子上場は特異な状態に映るようです。ただし、この問題をアクセスチャージに摩り替えるのには賛成しかねますが...
□ TOPIXは理論上二重計上される
この二重計上は時価総額で指数が算出されているTOPIX(東証株価指数)の実態を歪めている可能性があります。4月に行われた日経平均の入れ替えに伴って株価指数そのものの是非が議論されました。日経平均の乱暴な入れ替えはここでは置いておいてTOPIX(東証株価指数)について考えてもこの二重計上の問題は深刻ではないにせよ理論的に矛盾をはらむ指数ということになってしまいます。
□ 親子で利害が相反
この場合の問題は、親子間で株主の利害が相反するケースがあることです。NTTドコモのケースではこの2/3を占める株主、NTTの利益は必ずしも残りの株主の利益と一致しません。NTTの株主は保有しているNTTドコモ株にかかわる権利を主張でき、NTTの利益に反するようなNTTドコモの企業行動は好ましくなく、一方でNTTドコモだけをもっている株主は極論すればNTTがどうなろうと関係なく、利益を追求してもらえばいいわけです。例えばアクセスチャージ(3)で考えるとNTTドコモの株主にとっては低額であればあるほど有利に働くわけですが、NTTの株主にとってはNTTドコモ株を保有しているといってもNTT本体の業績を著しく損ないかねない経営判断はマイナスと映るはずです。この場合は親子関係にあることからNTTドコモの収益向上はNTTの収益向上に直結しているわけですが、NTTドコモには少数株主も存在することから、100%利益を享受できるわけではないのでNTTの株主にとってはアクセスチャージの引き下げはこの現象面だけ捉えれば不利に働きます。ただしこの問題は何もNTTグループに限ったことではなく、わが国においては普通に行われているグループ戦略の一つであり、今後は親子上場の際の持ち株比率は何%までなら良いかの指針が出てくることと思われます。
□ 親子どころか孫上場
保有する子会社の株式を一部だけ手放す(売り出し)か、公募増資した後、公開してキャピタルゲインを稼ぐという日本的なグループ戦略を最も具現しているのがソフトバンクでしょう。この会社の場合は単なる親子関係に留まりません。つまり大元であるソフトバンクの子会社であるソフトバンクファイナンスのさらに子会社であるモーニングスター社が先日、お膝元のナスダックジャパンに公開されました。さらに同グループではイートレード株式会社も公開する運びであり、グループ時価総額最大化戦略は留まるところを知りません。これ以外にもソフトバンクファイナンスの100%子会社のソフトバンクインベストメントを通じてベンチャー企業に投資を行っています。これらの会社が公開することになれば曾孫会社にあたるわけです。まさにネット財閥の様相ですが、このような手法がどこまで通用するのか正直言って筆者には疑問に思えてなりません。
□ 逆の動きも−ソニーの例
一方で逆の動きも見られます。例えばソニーの100%子会社化がそうです。これまでソニーはソニーミュージックエンタテイメント、ソニーケミカルなどの公開会社の株式を部分保有してきましたが、2000年1月にすべて自社保有に切り替えました。この狙いは従来以上にカンパニー制や工場の再編などの事業再構築を推進し、ソニー本体の企業成長におけるダイナミズムを失わないようにするためと言われています。ソニー以外にもこの子会社化の動きはローム、日軽金などへも株式交換制度を使って広まりました。この株式交換制度は現金支出を伴わないで企業買収を行うメリットがあります。 筆者は今後の株式市場における企業の評価を考える時、グループ力は避けて通れない問題と認識しています。単なる本体のリストラに留まらないグループでの事業再構築は収益に与える影響も大きくなると思われます。従ってこのグループ政策の舵取りはその後の株価の形成に大きなインパクトを与えると考えて投資アイデアにしようと思っています。
(注1)会社の一部分、部門を分割して新しく会社を設立し、その新会社の株式を既存の株主に割り当てる形で切り離すこと。米国ではわりとよく行われている。 (注2)一企業の中の特定の事業部門の利益をもとに配当などの株主還元策を決定する株式。特定の事業部門があたかも一つの会社のように扱われるのでバーチャル発行の株式と言う性質を持つ。 (注3)通信事業者間で払われる接続料金のこと。NTT地域会社以外の事業者はNTT市内回線の使用料をユーザーから徴収した通話料から支払っており、この金額の多寡が昨今、日米問題になっている。 |