先日、5月末の投資信託の純資産残高が約58兆6200億円と89年末の過去最高水準(58兆6492億円)に迫る水準まで増加したと報道されました。4月末との比較では株式投信は株価の下落で純資産は6700億円減少したものの、新規資金の流入額は5000億円に上っています。また公社債投信は1兆4300億円増加して残高は過去最高の43兆円に達しています。超低金利の継続と郵便貯金の大量満期が重なったためと解説されていますが、公社債投信はこの要因以外にも類似の商品と比較して利回りが有利なことから金利に敏感な投資家からの資金が相当量流入していることが考えられます。ただしこの確実に有利であることの継続が不可能なことも業界の常識です。
□ 株式投信の設定タイミング
株式投信の設定を見ると国内株式型ではバイオ関連と「***バリュー」などと冠した割安さを打ち出した新ファンドが次々に設定されています。これは株式市場において情報関連銘柄のパフォーマンスが芳しくないことに加え、中小型の割安株を物色する動きが続いているためと考えられます。筆者の経験則ではこのように株式投資信託がひとつのテーマを追って次々に設定されるとそれらのテーマは短期的にはピークをつけることが多く、弱気のシグナルと考えています。これは日本の投資信託マーケットが依然として販売証券会社の営業努力の上に成り立っている金融商品であることと関係が深く、すなわち運用上の理由で商品が開発されているよりは「売りやすい」商品を開発する体質であることに起因します。
□ 割安株は多いのも事実
投資信託がバリューというテーマを追って設定をするということは短期的には弱気のシグナルなのですが、日本株は実に割安株が多いのも事実です。例えば6月15日現在東証1部の1414銘柄中PBR(株価純資産倍率)が1倍を割っているのは655銘柄、全体の46.6%に当たります(1)。
□ 理論株価を考えると
PBRが1倍を下回っている要因はいくつか考えられます。ROE(株主資本利益率)との関係で考えるとROEが株主の要求する利回りよりも低い企業が多いからと考えることができます(2)。バブル期に行われた大量のエクイティファイナンスでROEの水準が低下していることに加え、度重なる国内景気の後退、リストラの進展からROEの分子の部分、すなわちEPS(一株当たり利益)が特別損失その他で低水準に抑えられています。東証1部全体でみたROEは今期の増益を見込んだとしても4.25%と依然低水準に留まっていますが、現在日本企業はリストラの進展で限界利益率が高まっており、方向性は明らかにプラスです。中期的にROEは上昇し、そしてその改善のスピードは株主が要求する利回りの上昇より早いと予想しています。従って割安株と思われる企業のPBRの再評価が可能な企業が数多く存在すると考えています。
□ 株主資本に対する信頼の欠如
ただしここで注意しなければならないのが、株主資産そのものについて考えると割安に見える株が多い要因の一つは残念ながら会計制度の不透明さにあるということです。つまり公表されている会計情報を使ってPBRなどを算出しても簿外の隠れ債務があれば、実際の企業価値はそれより低くなり、そのことを株価はあらかじめ織り込んでいる可能性があるということです。隠れ債務の大きさを考えると表面上割安というだけでは投資できない企業があまりにも多く存在します。
□ ファンドマネージャーの頭痛の種
従ってファンドマネージャーがPBRの低い割安株に投資する際にはフローの収益状況はもちろんですが、特に財務内容を念入りに調べる必要があります。これは人によって様々でしょうが、筆者の場合はまず有価証券報告書に記載されている資産の中で簿価と時価の差が生じていると思われるものを一つ一つ注釈書きがないか見ていきます。上場株式など市場があって簡単に時価がわかるものは計算が簡単なのですが、不動産や非上場の有価証券になると評価が非常に難しくなります。次に保証債務などの簿外での債務の可能性を探ります。この場合も保証債務の相手先の事業内容や財務状況など及び資本関係、権利関係などを見ていくわけですが、公開情報だけでは不十分です。そこで実際に企業訪問して様々なリスクを調べていく必要が生じます。ただし実際に企業の担当者に会ったところで彼ら自身どこまで把握しているのかでさえ不透明で、大抵の場合は疑問(疑惑?)がすべて解消するわけではありません。これがファンドマネージャーの頭を悩ませている原因になります。また裏を返せば個人投資家にもそれだけ勝つチャンスがあるということです。
□ 新しい会計基準の導入
しかしその懸念も徐々にではありますが解消に向かっています。その一つが新しい会計基準の導入です。今年の9月以降に中間決算を迎える企業については新しい退職給付会計の適用が強制されます。その結果、年金債務が表面化しますが、損失が大きく、自己資本が大幅に縮小することを既に株価は織り込んだ銘柄も多く見られます。また不動産の評価減については時価の下落により回収不能とされる(3)販売用不動産の強制評価減についての最終的な指針がこの7月にも出る予定です。しかし既に大手を始め、評価減の方向で開示が進んでおり、この9月中間期からは強制評価減が適用される見通しで、体力のあるなしに関わらず、評価減の必要が出てきました。(財務内容の悪いゼネコン、不動産会社がどのような数字を出してくるか非常に興味深いところです!)今後は事業用、投資不動産を含む固定資産の減損に焦点が移っていくと考えられますが、IAS(国際会計基準)によれば回収が不能とされる事態が生じた場合にキャッシュフローの割引現在価値まで評価減をすることを求めており、今後企業会計審議会での審議の行方が注目されます。こういったいくつかの会計上の変更点には注意が必要ですが、経営の透明性が高まるといった観点からはこれまでマーケットが間違った株価形成をしていた銘柄への投資チャンスは広がると筆者は考えており、株式市場にとって好材料の一つと捉えています。
(注1)分母は債務超過でPBRが計測できない7社を除いて実績PBRで計算。 (注2)ここでは詳しい説明は避けますが(いずれきちんと説明したいと思います)、株価のバリュエーションを考える上でひとつの普遍的な真理である配当割引モデル(DDM)とクリーンサープラスの関係式から考えた理論株価は株主資本に対する投資家の要求利回りを上回る利益の割引現在価値と株主資本の和である(べき)との考え方が根拠になっています。 (注3)この「時価の下落で回収が不能になる」の定義が曖昧ですが、販売用不動産については取得価額に 比べて50%以上下落している場合を指すという草案が日本公認会計士協会から出されています。 |