2000.10. 2
日本のIT普及のあり方

 2000. 9.26
良好な企業業績とリスク要因

 2000. 7. 3
グループ経営のあり方‐その1‐

 2000. 6.26
割安株を考える

 2000. 6.19
割安銘柄への投資

 2000. 6.12

 2000. 5.29
地価下落は株式市場にとって致命的か?

 2000. 5.22
ポートフォリオ構築のアプローチ

 2000. 5.15
荒れるマーケットで

 2000. 5. 8
3月期決算発表が本格化へ

 2000. 4.27
青歯王

 2000. 4.20
日経平均の銘柄入れ替え

 2000. 4.12
もはやバブル崩壊後ではない

 2000. 3.26
新年度を迎えて考える株式市場













攻めの経営への転換点






● 決算発表を振り返る
  3月期決算が概ね出揃いました。6月7日時点の集計では全企業(除く金融)、連結ベースでの2000年3月期は売上高が0.6%増と前年度比で微増だったのに対し、営業利益は16.2%増と2ケタ増益を実現した模様です。売上高が伸びない中で、本業を示す営業利益が伸びたということはリストラ策によるコストダウンが奏功した結果といえます。この事実は日本企業のリストラに懐疑的なストラテジストを静かにさせる効果があったようです。もはやリストラの流れは日本企業の収益力回復の本流として定着しつつあると思います。

● 2001年度はさらに高い伸び
  企業収益に関するマーケットの焦点は今期の業績がどの程度伸びるかにありますが、2001年3月期の会社見通しを現時点で集計すると全企業(除く金融)、連結ベースの経常利益は27.5%の増益となります。この数字は事前予想を上回る高い伸びであることに加え、時間がたつにつれ上方修正されており、方向性はプラスに傾いています。また今期は売上高の見通しが4.3%増とはっきり増収に転じることに注目できます。これまでの増益はリストラ策が頼りでしたが、経営者はいよいよ景気回復を前提とした企業収益の回復局面に入る可能性を見ていることになります。ただしこの辺りはマーケット参加者の中でも意見が分かれるところであり、国内景気回復、とりわけ民需をどう見るかによって増収が達成できるかどうか、現時点ではネガティブな見方が多く存在します。

● 日本企業の収益構造に変化?
 筆者の考えでは4%強の増収で20%台後半の利益が出るというのは少し出来過ぎではないかと思っていますが、この数字を素直に信じれば日本企業はこの程度の増収率でも利益が大きく出る体質に変わったのだと見ることができます。98年頃から本格化したリストラ策の進展で人件費などの固定費(1)を削減し、生産効率の改善などによる変動費(2)比率の低下によって限界利益率(3)が高まっていると推定されます。固定費の削減効果は売上高の増減に影響を受けずに利益に転化できるため、仮に売上高の見通しが下方修正されてもこの部分は変わりません。このことは今期の利益予想の実現性をサポートするように思われます。

● 割安株の再評価に必要なもの
 このところのマーケットはITバブルの崩壊でグロース株、特に値がさの成長株の高バリュエーションに対する見方が懐疑的になっています。その結果、バリュエーションが低い、つまり、PBR、PERなどの株価指標で見て裏付けのあるもの、いわゆるバリュー株を物色する流れが見て取れますが、筆者は単純に株価が割安であるというだけでは株価パフォーマンスは上がらないと考えています。割安株が再評価されるにはきっかけが必要で、それには経営が本当に変革できるかどうかにあると思っています。

● 後ろ向きから前向きへ
  そしてそれは後ろ向きのリストラではなく前向きの戦略的リストラを実現できている企業です。この傾向は日本企業全体に当てはまると思っています。例えば日本板硝子や住友大阪セメントはかつての本業であるガラス事業やセメント事業は成熟産業で、ちょっと前まではいわゆるオールドエコノミー企業のイメージですが、それらの事業ではなく、ガラス、セラミック技術を発展させた新規事業が成長ドライバーとなって収益を牽引できる体制が整って株価は上昇しました。これらは主に成長性の高い情報関連の技術で例えば日本板硝子においてはDWDM(4)用レンズが大きく伸び、収益を牽引します。収益性の低い板ガラス事業のリストラを進め、一方で情報関連素材の分野に重点投資するようになっています。今後10年間でDWDM向け投資を200-300億円行うことを表明しています。これによって生産能力は倍増し、10年後には現在の6倍にあたる1200億円の売上を見込んでいます。ここまでくればちょっと大風呂敷で信憑性、実現性には疑問符が付きますが、その位の計画を立てることが可能なほど経営が変革したことも事実です。

● 過剰流動性による高バリュエーションはない
  これらの企業への投資も正常なバリュエーションの範囲で行うことが基本になります。マーシャルのK(5)の伸び率鈍化にみられるように昨年末までの過剰流動性は若干後退しているようにも見受けられるからです。株式市場への影響を考えると流動性相場の様相は見られなくなっており、高いバリュエーションを許容したITバブルは再現しないと考えておいたほうが良いように思います。これからのマーケットでは一見オールドエコノミーに見える企業の中にも儲かる企業が見つかるかもしれません。
      

(注1) 固定費とは生産数量の増減の影響を受けないで常時発生する費用のこと。労務費、減価償却費などを指す。
(注2) 変動費とは生産数量の増減に応じて変動する費用のこと。原材料費、外注費などを指す。
(注3) 限界利益率=1−売上変動費比率 例えば限界利益率が20%の場合、売上が10億円増加した場合、利益は2億円増加する。もっともあくまでも理論的にはということで、実際に企業の収益予想を立てる場合には他の様々な前提条件が変動することによって理論通りに行かない場合も多く、筆者ははその辺りの事情を考慮した上で使用している。
(注4) DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing:高密度波長多重)。一本の光ファイバー上に多数の波長を乗せることでより多量の伝送を可能にするシステム。インターネットのトラフィックが急増している北米中心に急速に普及し始めている。
(注5) マネーサプライ量÷名目GDP。ここではマネーサプライ量をM2+CDの平残としている。

永尾完治